リコー XR-Pを動かす

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不動品としてメルカリで売られていたフィルムカメラ、リコーの「XR-P」を買い、幸運にも(?) 撮影できるところまで持っていけました。結論としては、この種のカメラに手を出すのはオススメできない、ということになるのですが(笑)、顛末を書き残しておきたいと思います。

修理不可能

「XR-P」は1984年発売です。「マニュアルフォーカス」「手動巻上げ」のカメラとしては晩年にあたり、電子化も当時なりにかなり進められているので、電装系が壊れると市井の修理店でも対応が難しくなります。「XR-P」のようなマイナー機種は修理ノウハウや補修用パーツも少ないためさらに困難になります。へそまがりな私は苦労を買って出た形ですが、そんなことはしたくないということなら、「メジャーなメーカーにしておきましょう」が最初のアドバイスということになります。

私は不動品の「XR-P」を入手後、(修理が可能だと思っていたので)都内の個人経営っぽい修理店を足で訪れ修理を依頼しようとしましたが、症状を聞く以前に、「XR-P」を一目見るなり「あ、それはやってないですね」と、2つの店で断られました。

別の店として、「XR-P」を修理で受け付けたことが紹介されていて、実態としてはリコーのカメラを扱っている修理業者に取り次いでくれるという店も訪れましたが、その修理業者に送って見てもらった結果は「補修用のパーツがない、入手もできないので無理」ということでした。

さらに、修理者を何人も排出している老舗っぽい都内の修理店(店頭で4人ほどが修理作業に勤しんでいました)も訪れましたが、やはり「リコーは作業マニュアルとかもないので……」という感じで、意訳すると「電装系の故障なら無理、リコーのカメラはノウハウもない」ということで「XR-P」は受け付けてもらえませんでした。

最後にキタムラに行き、キタムラ傘下の修理専門会社のUCSに預けてみましたが(盛況なのか見積もりが来るまで4週間かかりました)、やはり症状に対してどうとかではなく、修理は無理という結果でした。

直ってしまった?

この「XR-P」がジャンク扱いだった具体的な理由は「シャッターが止まって動かない」というものです。後から分かったことですが、これは古いカメラにありがちで、大半はシャッター関連パーツのオイル・グリスの固着が原因なようです。

私の個体は後幕シャッターが閉じきらず80%ぐらいのところで止まっている(上部20%ぐらいが開いている)という状態でした。ミラーも上がったままです。シャッターの動作が完了せず最後付近で止まっている状態なので、巻き上げはできずシャッターボタンも反応しません。

「長く保管されていて、出品にあたって動作確認しようとしてシャッターを切ったら動かなくなったのでジャンクで出品します」という経緯で、こういうケースはよくあるようです。ネットオークションやメルカリでリコーの一眼レフカメラのジャンク扱いの品を見ると、同じ場所でシャッターが止まっている状態のものがけっこうありました。

何度も修理を断られ、自分でなんとかするか……と思い始め、とりあえず止まったシャッター羽根をチェックしていたのですが、具体的には、棒などで下方向に押すと動くのに、上方向に戻る動きが途中で詰まって止まる、という状態でした。

……ところが、何度か動かしていると、ふいにシャッターがバシャンと最後まで戻り(!)、上がったままのミラーも元に戻りました。止まっていたシャッターの動作が一応完了したので、巻き上げレバーも動くようになりました。

その後、巻き上げレバーを巻いてシャッターを切る、という一連の動作が5回に1回ぐらい成功するようになり、何度もやっていると3回に1回は成功するようになり、おびただしい数の空シャッターを切り続けた結果、1回巻き上げたらシャッターが切れる、という普通の動作がちゃんとできるようになりました。シャッター関連の固着していたオイルがほぐれてまともに動くようになった、と考えてよさそうです。

シャッター速度を自作ツールで測る

私の個体は幸運にも電装系がまともだったので、あとはシャッター速度の精度がまともなら実際に使えるカメラになります。

シャッター速度の測定は通常、高価な測定器が必要ですが、マイコンボードの「Arduino」を使って比較的簡単に簡易的な測定器を自作できる「Shutter Speed Tester」というプログラムが公開されています

私は、「Shutter Speed Tester」を解説している記事を参考にさせてもらい、秋月電子や千石電商でパーツを揃えて、まったく同じものを作りました。センサーは1点だけなので、3点でシャッター幕の動きのムラを計測するといった厳密な計測はできませんが、素人が手にするツールとしては十分便利に使えます。

上の白いブレッドボードに載っているのがArduinoの「Shutter Speed Tester」

フィルムカメラのシャッター速度は、ISO(とJIS)で許容誤差(=精度)が定められています。特に高速シャッター側は、自分で測定してみると、1/2000といったダイヤルの数字と、たいていはそれに満たない測定結果との乖離に不安になることも多いですが、落ち着いて、許容誤差に収まっているかどうかをチェックします。

ちなみに高速シャッター側は許容誤差「±0.45EV」が基本になっていますが、さらに速い1/4000秒や1/8000秒といった超高速シャッターでは、標準的な許容誤差の「±0.45EV」に加えて、緩和された範囲として「±0.65EV」という基準も設けられているようです。

設定速度(秒)理論上の時間JIS/ISO 許容範囲許容誤差(目安)
1 秒1000 ms812 ~ 1230 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/2 秒500 ms406 ~ 616 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/4 秒250 ms203 ~ 308 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/8 秒125 ms102 ~ 154 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/15 秒62.5 ms50.8 ~ 76.9 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/30 秒31.1 ms25.4 ~ 38.5 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/60 秒15.6 ms12.7 ~ 19.2 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/125 秒7.81 ms6.35 ~ 9.62 ms約 -19% ~ +23%(±0.30 EV)
1/250 秒3.91 ms2.86 ~ 5.34 ms約 -27% ~ +37%(±0.45 EV)
1/500 秒1.95 ms1.43 ~ 2.67 ms約 -27% ~ +37%(±0.45 EV)
1/1000 秒0.98 ms0.71 ~ 1.33 ms約 -27% ~ +37%(±0.45 EV)
1/2000 秒0.49 ms0.36 ~ 0.67 ms約 -27% ~ +37%(±0.45 EV)

1/250秒以上の高速側は、許容割合が-27%~+37%とけっこうな幅がありますが、前述のようにターゲットとしている露出のずれは±0.45段(EV)で、ネガでは余裕をもって吸収できてしまう範囲です。

例えば1/1000秒(1ms)の設定で、計測したシャッター速度が許容誤差ギリギリの1/770秒(1.3ms)だった場合でも、露出のずれは0.3~0.4段の露出オーバーにしかなりません。

許容誤差に収まらない実測1/660秒だったとしても、露出のずれは0.6段で、露出オーバーに強いネガでは吸収できる範囲に収まります。見方を変えると、これらの規格は、より厳密な露出が必要なポジをターゲットにしているとも言えます。

私の「XR-P」のシャッター速度を自作の「Shutter Speed Tester」で測定したところ、1/1000秒と1/2000秒は許容誤差から少し外れて、シャッター速度がやや遅いという結果でしたが、上記のように、ネガでは吸収できる範囲だろう、という結論に至りました。

写真を撮れるカメラになった

モルトを貼り替えてフィルム室を清掃し、フィルムは「Kodak GOLD」を装填、梅雨の時期であいにくの曇天の日でしたが、稼働テストということで割り切って撮ってきました。すぐに現像に出しましたが、特に問題はなかったようで、ジャンク品から無事に「写真を撮れるカメラ」になりました。

フィルムは現像だけ店に依頼し、自宅でのデジタイズにはニコンの「フィルムデジタイズアダプター ES-2」を使いました。デジタルカメラは「Z6」と「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」の組み合わせです。デジタイズ後のネガの反転処理は、「Lightroom Classic」のサードパーティプラグイン「Negative Lab Pro」(有料)を使用しています。

おまけ:液晶は直せず

実用上はそれほど影響はなかったのですが、ファインダー内部の右側に見える液晶のマスクが少しおかしいという症状だけ、ちょっと気になる状態でした。青色でマスクされている部分のうち、「2000」より上のマスクが外れ、点灯状態のように白くなっているというものです。

正しい状態(XR-P パンフレットより)

「XR-P」は修理店に断られまくった結果、自分で分解もやむなしという心構えだったのですが、いかんせんマイナー機種につき、ネット上の情報は圧倒的に少なく、心もとない状況でした。

そこで、「XR-P」はアメリカでかなり売れたという話もあったので、英語圏を中心に情報を探したところ、整備マニュアル(Repair Manual)を入手できました。

XR-Pの整備マニュアルの冒頭。Claudeに依頼して、Pythonライブラリで販売業者の透かしの除去やOCR+テキスト化を施し、英語テキストをコピペで翻訳にかけられるようにしました
整備マニュアルのおかげで、液晶部分に無駄なくアクセスできました
原因は封入されている青い液体が「行き渡らなくなっていた」ことでした。いろいろ試しましたが正しい状態に戻せませんでした

結果的には、この液晶のマスクの不具合は直せなかったので意味はなかったのですが、整備マニュアルがなければトップカバーを外し狂気的なフレキの山の中をいじろうという気にはならなかったと思います。「XR-P」はねじの数も多いのですが、当たり前ですがサイズ違いもすべて図示されているので、心強い部分でした。

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