ついにというかやっとというか、しばらく気になっていた界隈であるヴィンテージウォッチの初めての1本として、オメガの製品をひとつ入手してみました。「オメガ ジュネーブ」(Ref.135.041)で、1969年製です。販売店の情報によるとケースは後年に仕上げをやり直しているとのことですが、それ以外はオリジナルで良好な状態です。ベルトはアキュレイトフォルムの「JAPANESE COWHIDE LEATHER STRAP」(ブラック)を合わせています。
時代に翻弄されたジュネーブ
まず基本的な情報ですが、オメガの「ジュネーブ」は、今は存在しないシリーズです。ネット上に書き残されたさまざまな情報を総合すると、1953年~79年に展開されていたようです。オメガの入門用モデルという位置づけだったようで、基本的にシンプルで、初期から中期はドレスウォッチのスタイルを踏襲しています。
以下のジュネーブの歴史はすべてネット上で集めた情報です。
1950年代当時のオメガは、時計の精度のコンクールでさまざまな成績(記録)を残しており、その開催場所であったジュネーブ天文台から名付けたのが「ジュネーブ」であるということです(自社工場もあったようです)。本質的な価値とされていた精度の追求は、フラッグシップモデルとして誕生した「コンステレーション」として結実しますが、同時期に誕生したジュネーブも、初期はそうした格式の高さを継承したドレスウォッチに位置づけられ、精度を含めて上位モデルに迫る仕様が随所に見られたということです。
その後の1960年代は、腕時計が高級品ではなく普及品として広がった時代で、腕時計が社会人の必需品となり、就職や成人式のお祝いに贈られることも多かったようです。ジュネーブはそうした普及期の攻略モデルに位置づけられ、上位モデルゆずりの高精度ムーブメントをさまざまなモデルに搭載して水平展開する、という当時のオメガの方針も手伝って、オーバースペックな品質で展開された普及モデル、というシリーズになったようです。
1970年代、ジュネーブの晩年には、アバンギャルドなデザインを採用したモデルも展開されたようですが(探すとさまざまなものが出てきます)、これは、さまざまなコンセプトのモデルをジュネーブに集約したことや、デ・ヴィルなど中位以上のドレスウォッチのシリーズとの住み分けによる結果、とされています。また、ジュネーブの終了には時代背景も大きく影響していそうです。1970年代はクオーツ式が猛威を振るった時代だったからです。
ある時計店のコラムによれば、オメガは1979年、クオーツショックへの対応としてジュネーブにある自社工場の閉鎖を決定し、「Genève」という地名の表記を製品に使えなくなったため、ジュネーブのシリーズを終了した、とあります。
こうしたように、格式の高さやルーツを持ったムーブメントを搭載しながら、クオーツショックの影響を受け、時代に翻弄されながら消えていったのがジュネーブと言えそうです。オメガが現在公開している歴史のページにおいても、コンステレーションやスピードマスター、シーマスターといった華々しい功績を誇るモデルの陰に隠れる……のは仕方がないとはいえ、シリーズの存在がそもそも確認できない扱いになっているのは、少し寂しいですね。
ジュネーブのラインナップは、すべて自社製造の高品質な機械式ムーブメントを搭載して展開を終えており、他社製ムーブメント搭載モデルがラインナップされること無く、また一度もクオーツ式モデルがラインナップされなかった希有なシリーズということです。

Cal.601
ムーブメントは手巻きの「Cal.601」です。裏蓋を開けて自分で観察したいところですが、素人の分解でホコリなどが混入し不具合が出るのは怖いですし、販売店の保証が切れてしまうので、ひとまずは販売店が撮影した写真で我慢するとします。
当時すでに自動巻きのムーブメントは存在していますが(オメガでは1952年発売の初代コンステレーションに初搭載)、オメガの「Cal.601」は、自動巻きの傑作とされるムーブメント「Cal.550」系から自動巻き機構を省き手巻きにした「Cal.600」の改良版、とのこと。全体に銅メッキが施されています。この時代、上位シリーズには自動巻き、下位シリーズには手巻き、という住み分けだったのではないかと想像します。
パワーリザーブは公称値で48時間です。振動数は19,800振動/時(5.5Hz)、石数は17石、拘束角は49度となっています。
このモデルに搭載されるムーブメントには、2つの姿勢で調整される旨が刻印されており、少しグレードが高い扱いのムーブメントといえそうです。同じ「Cal.601」でもこの刻印がないバージョンもあるようです。

ネット上で見つかる「Cal.601」の当時の技術資料によると、主な特徴として、センターセコンドであること、耐震装置(インカブロック)が搭載されていること、非磁性である(Anti Magnetic≒ある程度磁化されにくい?)ことが挙げられています。
また、精度の微調整に使われる重要なパーツである緩急針の形状が、Cal.600のスワンネックから変更され、2ピースで偏心ビスを使う、今でいうエタクロンタイプ(?)と思われるものになっています。1960年代当時のこの変更についてどう解釈すればいいのか、私は知識を持ち合わせていませんが、手元の個体は調子が良いですし、「Cal.601」は今では高精度・高耐久のムーブメントとして知られているようですから、緩急針とその周辺パーツの変更は順当に改良目的だったと言えそうです。
外装の仕様
ケースはステンレススチール製です。風防は中央に小さく「Ω」マークの刻印がある純正品のため、プラスチック風防だと思われます。傷が少なく綺麗なので、どこかのタイミングで交換されているのかもしれません。
裏蓋はねじ込んで固定するスクリューバックで防水仕様ですが、一般的にヴィンテージウォッチは防水性能が失われていると考えるので、販売時点では非防水の扱いです。
購入した「Ref.135.041」は、ケースとラグが一体になったトノー型に分類されるデザインです。このモデルは日本人にはなじみ深く、記念品として贈られることも多かったモデル、とのこと。特別に凝った造形ではなくシンプルで、今となってはモダンとも解釈できるデザインです。
実測したサイズは、ケースの幅が34.5mm、縦が40.6mm、厚さが8.6mmでした。ラグ幅は18mmです。リューズの直径は5mmで、十分な大きさがあります。


ヴィンテージの個体として
販売店によると、ケースは後年に仕上げがやり直されている、と説明されており、実際に小傷がほぼない非常に綺麗な状態でした。ケース側面はポリッシュ仕上げで、綺麗な鏡面の状態です。こうした再研磨は意見が分かれるようで、ヴィンテージウォッチの販売店の多くは、小傷を含めてオリジナルの表情であるとして、再研磨されていない個体や、オリジナルに近いエッジやシェイプ、ボリューム感が減っていない個体を積極的に評価する傾向にあるようです。
この個体は再研磨が施された時代が分からないので、それに至る経緯は不明です。新品として購入し使い続けている間でなら、修理のタイミングなどで使用者が再研磨を依頼するのは自然な流れでしょう。あるいは、中古として流通する中で、見栄えを良くするために再研磨されたのかもしれません。これも時代によってはあり得る判断です。
もっとも、私のようなヴィンテージ初心者にとっては、“綺麗だと嬉しい”というのが偽らざるところ。最初の1本としては、再研磨された個体でもいいと判断して購入しました。
ケースの表面(上面)はヘアライン仕上げですが、これは件の後年の再研磨でどうやら“向き”が変更されているようです。ネット上で見つかるジュネーブの同じ型番(Ref.135.041)の写真を見ると、ほとんどはダイヤルと同じサンレイ仕上げ(放射仕上げ)になっていますが、この個体はヘアライン仕上げが縦方向になっています。これまた今となっては意見が分かれそうな処置ですが、私は厳密にオリジナルの状態を追求していたわけではないですし、そうした途中の処置のあれやこれやもこの個体にとっては個性のうちかな、と思っています。


手にして理解できた、その魅力
近くで目をこらして見ると、針にはポツポツとした劣化の痕がいくつかありますが、肉眼で見る限りや、腕に着けている時に見る普通の利用シーンでは、ほとんどノイズにならず気にならないと感じました。インデックスも鏡面がしっかり残っていて、キラリと輝き、素性の良さを醸し出しています。

このモデルのダイヤルは元々シルバーですが、経年変化により色づき、薄いベージュあるいはシャンパンゴールドといった色に見えます。
こうした、時の流れによる穏やかな変化が蓄積され、ほかのどれでもない個性を獲得しているのがヴィンテージウォッチの魅力です。
このことは各所でさんざん語られていることなので、頭では理解していたのですが、実際に購入してみて、その意味を大いに実感できました。
量産される新品はもとより、中古でも最近発売された製品なら、綺麗な個体を求める人は多いと思います。そうした、綺麗であることの価値が高い時期の腕時計の場合、「自分と同じものを買った人がいる」「同じものを持っている人がいる」……そういう感覚はどこかに残ります(あくまで私は)。
しかし、長い間の経年変化が蓄積され、唯一無二の表情を持つヴィンテージウォッチは、そうした杞憂とは無縁で、むしろ、見えない誰かと競っているような観念から解放された感覚さえ覚えました。今なら、例え同じオメガ ジュネーブを持つ人が目の前に現れても「おや、これはいい表情ですね」と語り合える気がします(笑)。
55年の時を経て手元にやってきたこの腕時計ですが、よい具合に変化した表情とは裏腹に、精度は日差2~4秒ぐらいに収まっており、素性なのか整備技術なのか、かなりコンディションが整えられた個体でした。往時もこんな精度であったのなら、オメガの精度にかける意気込みがいかほどのものであったのか窺い知れるというものです。

古くても高精度、薄型でビジネスシーンでも使いやすく、手巻きのパワーリザーブは仕様通り巻ききってからきっちりと48時間以上(48時間50分ほど)駆動するなど、手にする前に想像していたよりはるかに実用的でした。
そして何より、唯一無二の個性、“誰とも被らない時計”という魅力には、なかなか抗いがたいものを感じています。ヴィンテージ沼の扉を、開けてしまったのかもしれません。

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